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2009年11月16日 (月)

RPG小説(1) 『旅の終わり』

本ブログは過去の思い出データベース。

なので、そろそろ“昔”に書いたものも載せ始めることにした。
……いや、ネタ切れなわけぢゃないよ。

で、とりあえず自作小説をば一本掲載。大昔の作で、いまさら的内容。

0011181509
『箱根外輪山のススキの稜線』 FinePix4900Z (2000/11/18)

『旅の終わり/旅の始まり』 第1話

【ジャンル】
 ファンタジー系ライトノヴェル(RPG小説)連作短編

【キーワード】
 剣と魔法、魔獣、姫、小人、捕り物

【紹介】
 ありがちRPG小説、剣と魔法のファンタジー。2話まで書いたうちの1話目。拙作。
 ……いま改めて読み返してみると、'90年代っぽさがあるような気も。

【初出】
 1995年頃?
 X68030というPCのシャーペン・リッチテキスト・フォーマットで書かれてました。

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第1話 旅のおわり                    作・基愛(きよし)

 ――アイ・コンタクト。

 カッコいい言葉だと思っていた。さっと視線を交わす二人。たったそれだけ、そうするだけで次々と展開する二人の見事な連携アクション。意志疎通のできている仲間同士であってこそ初めて許されるワザ――そう思っていたのだ。ほんの少し前までは。

 だが現実は厳しい。さきほど彼女の目がおれに加えたのは、まごうことなきプレッシャー。それもかなりのレベルのものなのだから。加えて、彼女の口もとにはうっすらとした笑み――これはごく狭義的かつ一方向のアイ・コンタクト。おれはあわてて口の中でモゴモゴと呪文を唱え始める――そうせざるを得ない。

 状況。御覧の通り。あまり付け足すこともないだろう。そう、おれたちは尻尾を巻いて逃走中だ。鋭意追跡中なのは、十匹あまりの魔獣の群れ。あえて注釈を加えるなら、「道中に逢いたくない魔獣ベスト・テン」に必ず名を連ねるやつらということぐらいか。だが、いまのおれは身の不運を嘆いている暇さえ与えられない。

 おれたちはひたすら走る。

 走って逃げる。

 当たり前なのだが、やつらは追いかけてくる。それは追うものの宿命。そう言わんばかりに。

 頃合を見ておれは足を止め、くるりと魔獣どもに向き直った。おれのツレも一緒に足を止める。目に見えて分かってしまうのが悲しい……稼いだ距離のアドバンテージの、消耗の早さよ。

 そっと目を閉じる。いっとき、汗が頬をつたわる。そして、唱えていた詠唱が完結する。組んだ指をほどき、周囲にプールされた魔力を押し出すように周囲に展開する――魔術の発動。

 いくつもの光の粒がおれの体の回りに出現する。それらはたちまち握りこぶし大の大きさにまで膨れ上がり、彗星のように青白い尾を引きながら次々に魔獣どもの群れに飛び込んでいく。

 すべて着弾。同時に音の無い、すざまじい閃光。大量に発生した光の粒子が、あたり一帯をすべて白一色に染め上げる。

 白光はすぐに褪せる。そして、おれはおそるおそる目を開く。確認――敵は……敵はてんでノー・ダメージ。それどころかますます力いっぱい血気盛ん……そう見えてしまうほどの勢いで、すぐ間近まで迫ってこようとしていた。

 そう、おれの魔術は足止めにすらならなかった、ということだ。足が止まったのはオレ達――。

 

 

 べつに言い訳をしたいわけじゃないが、少し説明を加えておこうと思う。まず、おれは殺傷力のある魔法弾を生成できたためしなど、生涯かつて一度も無い。自分で創れるのは、輝いてはいるが熱くはない、まあ、言ってしまえば照明用の光玉程度が関の山。光を操る、といえば聞こえがいいが、要するに手品師レベルの幻術師なのだ。たった今、過不足なく証明して見せた通り。 そこのところを、諸兄の方々にはきっちり理解しておいていただきたい――。

 そしておれは、ご期待に沿えなくて残念、というような表情をこしらえてツレの方に向き直る。昼間っから人様を襲うような輩はこれだから……と、切り出しかけて気付く。驚いたことに、彼女は目を閉じて両手の指を組み、ぶつぶつと何かを唱えているではないか。

 印呪?

 そうであるなら、おれの失敗はとうに織り込み済みだったということだろう。なけなしのおれのプライドが、ピキピキとヒビ割れていく音が聞こえてくる。

 おれより少しの遅れで始まったらしい呪文の詠唱は、すでに最終段階に入っていた。刹那、彼女のマントが風を巻いてはためき、彼女の挙動が静から動へと大きくうつろった――印の完成、力の解放。

 !!

 ……時間が止まった!?

 いや、そうではない。

 たしかに、巨人の力を持ってしても食い止められぬと思えた魔獣どもの突進がピタリと止まっている。奴らはぎりぎりと上体を動かしてあがくものの、突如として地面に根が生えてしまったかのように、一歩も前に進めない。いくつものいらだちの咆哮が、轟音さながら周囲に響く。そこにあるのは、森の狭間にぽっかり空いた空虚な空間にすぎないというのに。

 だが、それ以外は別段変わった様子は無い。おれは手足を振ってそれを確認する。

 おれは彼女のしでかしたことにいま一度驚いてしまった。なぜなら彼女は魔術師ではないからだ。

 セティアに付いて魔術を勉強中――そう、そのことは確かだ。しかし、いきなりこんな高度な力場呪文の教えを乞うていたとは。あまつさえ、こんな短期間のうちにきっちり習得してさえいたとは。

 そんな感慨に浸っているうち、おれの足許にも異様な重力がまとわりついてきた。おれはあわてて力の影響圏外へ跳び退く……この技は、どうやら敵味方まったく見境ないらしい。

 そのことについては不思議だとは思わない。まことに彼女らしいワザ。それだけのこと。むしろ、それより遥かに重要なのはこっち――この呪文を仕掛けている間、術者自身も動けない、という間抜けな事実の方――。

 彼女は足を踏んばり、見えない相手を力ずくで迎え込むように二の腕を交差し、顔をうつむかせ身を震わせながら必死に力場を維持している。おれは、それを阿呆みたいにはたで眺めているだけ。残念ながら手助けのしようがない。

 そんな、彼女と魔獣どもの力の拮抗状態がどのくらい続いただろうか。突如、彼女がキッと顔を上げて敵を睨んだ。そして身体に残っていた力を最後の一滴まで絞り出すかのように、一気に腕を振り下ろした。と、同時に彼女は叫んだ。

 「沈みなさい!」

 ずべちゃ。

 思わず気が抜けてしまう変な音をたててすっころんだのは、あろうことか彼女自身であった。どうやら自分の造り出した力場に耐え切れなくなったらしい……。

 それを見て、魔獣たちも皆、コケた。

 

 

 ――ようにおれには見えたのだが。

 「あたしの術が決まったのよ!」

 おれに手を引かれて走りながら、彼女はそう主張していた。

 そうかもしれない。相手を地面に這いつくばせる技なんて、彼女でもなければ他の術すべてを差し置いてでも最初に憶えようなんて思わないだろう。

 「術者が先に潰れてみせるなんて……心憎い演出だよなあ」

 誉めるおれ。笑いを噛み殺しながら喋っているため、じつは言葉に誠意がない。

 「だああっ、だからあれは足が滑ったんだって!」

 「……体が重かったということは?」

 「ない、ない! ぐううっ、こんなときにひとが気にしていることを……だいたいあんたの魔法がショボイのがいけないんじゃない! もちろんそんなこと分かっていたけど、でも煙幕代わりにさえしてもらえないないなんて、どーゆーことなのっ!?」

 あとは怒涛の毒舌攻撃。よくもまあこんなに罵詈雑言を知っているものだ。さすがお姫様だなあ、と変なところで感心してしまう。

 だが、おれはだんまりを決め込むことにした。ちょっとばかし真面目に現状認識を行ってみたのだ。そう、魔獣どもが怒り狂って――どう見てもそう見える――おれたちを追ってくるのだから。

 飽くことなき追いかけっこ。

 もとの状態に逆戻り。

 

 

 ――おれたちは走る。

 ――やつらも走る。それがやつらの存在理由。そういわんばかり。

 取り込み中であったため紹介が遅れた。いま、おれの横でギャースカわめいているのがフェルという名の女。女というより少女。少女というより……お子様じゃないかと時々思う。旅は道連れ世は情けたる由縁で、仕方がなく一緒に行動している。

 この仕方なく、という言葉は、彼女がお姫様を自称しているという事実によってより重みを増すのだ。誰だって、自分のパーティーにやたらお高くとまるだけで、その実まったく戦力にならない人間など加えたくない。(いやもっとも、おれも人のことは言えないのだが)

 ちなみに彼女は身の証となるものは何も持っていなかった。ただ、「下々のものはあたしを様付けで呼ぶようにね!」と、二の句を継がせず他人に命令し、そして実際その通りにしてしまうあたり、ホンモノの貫禄は十分だと思う。

 ただし、それだけ? 訊かれれば、それだけ、と答えることにしている。

 ――そうなのだ。いま思うと、彼女の現れた半年前にすべての事件の原点があったのだ。なにしろ彼女はなんだかよくわからないうちに、わからない動機をもっておれたちのパーティーに加わり、その後の旅はどういうわけか波乱含みになってしまっているのだから。

 その最たるものにして決定的なものがこの……バカバカしい追いかけっこ。

 追いかけっこは続く。

 

 

 どこまでも続く……おれは足が痛くなってきた。一目散に走っているうちに、いつのまにやら地面がごつごつした岩床に変わってる。大小の岩つぶてが一面にぶちまけられていて、足の出しどころを間違えると収拾のつかない転び方をしてしまいそうだ。

 そんなことはおかまいなし、とばかり敵はわらわらと背後に迫ってくる。本当にしつこい。さすがに「道中に逢いたくない怪物」として名を馳せているだけのことはある。

 距離もまた詰まったようだ。奴らのドロドロした恐ろしげな姿も肉眼でくっきりと……畜生、転がった石など踏み砕いて突進してきやがる。バリバリという派手な破砕音が空気を震わし、臨場感をいや増している。煮込みすぎて型くずれしたスープの具みたいな姿をしているくせに、はなはだ理不尽な野郎どもだ。

 そんなふうに余裕ぶってみせるものの、身体はじつに正直である。なぜなら、おれの顔からはずいぶん前から血の気が失せている。傍からは、顔が青白く見えているかも知れない。

 そして身体の状態は精神に直結する――もしかすると、あいつらは自分らの獲物が疲れて抵抗できなくなるまで、わざと追いつかないつもりなのかも知れない、湯気が立つほどの温かい生肉を狙っているだけなのかも知れない――考えるのは、そんなようなことばかり。

 おれは息があがるのと同時に猛烈に後悔を始めた。目を閉じると、数日前に逗留した街の、ある店先の光景が浮かんだ。ぶら下がっていた小汚い冊子。その表紙に大きく書かれた文字は……

 “三分で憶えるマジック・アロー”

 三分で憶えられるなら、こんな苦労はしないって!

 目蓋の光景にあたるおれ――むろん、それで状況が変わるべくも無い。

 

 

 「…やだな……囲まれちゃった…」

息も絶えだえにフェルが呟く。先ほどの無理な呪文の疲れも残っているのだろう。徐々に走るスピードが落ち、やがて歩くのと変わらない速度となる。おれも走るのをやめた。するとおれとフェルの間を、なにやら丸い物体がスピードに余って転がっていった。

 いかん、すっかり忘れていた。おれたちはいま三人なのだ。三人目はこいつ。まだパーティーに加わって三カ月しか経っていない――というのは忘れていた言い訳であるのだが――名をコビイという。小びと族コビイ。

 いや本当は有声音と無声音が絡み合ったもっと長く複雑で絢爛豪華ともいうべき派手な名前がある。あるにはあったのだが、フェルが「ああ面倒くさい! 小びと族だからコビイと呼ぼうよ。うん、決定!」などと言い、それに誰も異を唱えなかったのだけの事だ。

 丸い物体はゴロゴロとしばらく転がった後、突如弾け、足と手が伸びた小型の人の姿に変化した。そしてポーズをびしいっと決める。

 いつもながらコビイの曲芸は感嘆ものだと思う。天賦の才と言ってもいい。ただ日の悪いことに、たまたまそこは涎を垂らす魔獣どものまん前だったりした。コビイにはまったく、お気の毒としか言いようがない。

 「おーいコビイよ、戻ってこーい」

 おれは上がった息を抑えつつ、そう呼ばわってやる。たたらを踏んでいたコビイは、くるりと反転して引き返して来た。

 ――相変わらず陽気なやつだ。だが彼のいつも変わらぬ笑顔が、今回ばかりはひきつっているようにも見える。

 「やあ、おまたせっ」

 コビイは右手を上げて朗らかに挨拶を返してくれた。だが肩で息をしている事実は隠しようがない。

 「はいどうも、コビイ。で、どうだい調子は?」

 「うん、さいこー!」

 語彙の少なさに加え、彼には少々ひねくれたところがある。それは根が素直じゃないとか不平不満をつらつら言うとか、そういうひねくれ方ではない。ただ、周囲の状況にあわせた態度と行動を採ることを物凄く厭うのだ。種族的な性癖らしい。

 「やっぱり運動っていいね。いい汗かいちゃった」

 ……冷や汗にしか見えない。さすがに背後ににじり寄る怪物どもを意識しているようだ。

 怪物どもは、完全に獲物を囲い込んで、憎らしいほど余裕しゃくしゃくのてい。赤黒い口を張り裂けんばかりにして、よだれと生臭い息を俺たち三人に向かって吐きかけてくる。皓々と光るどぎつい緑色の目が横一線にきれいに並ぶ。陽がちょい翳っているせいで、そう見えてしまうのだ。

 威嚇効果としては、まったく申し分無い。

 「さてフェル様、この状況からいかなる手段を用いて脱出を図りましょう?」

 おれの口からはそんな慇懃な言葉が出る。フェルと旅するようになってから覚えた口調だ。言外に皮肉を込めるための言い方。

 だが今回だけは、その言葉はなかば無意識に口を衝いて出てきた。生涯最悪の危機的状況の中で、純粋に習い性が出たらしい。

 「そうねえ……どう致しましょう」

 神妙にそう呟くフェル。考えに沈む端正な横顔をちらと目にしたおれは、王族の品性というものはかくいうものかと納得した気になる。

 「あなた……人身御供って言葉、聞いたことある?」

 前言撤回。おれはぶるんぶるんと首を振った。

 「おそれおおくも……フェル、それはあまりの言い様じゃないか!」

 「黙らっしゃい! いい? 家来というものは自らの命を投げうってでも主君をお守りする、というのが昔からずぅーっと続いていて文句を挟む余地などまったく無い、当然至極のしきたりなのよっ!」

 誰が家来に! と言いかけておれは絶句する。フェルの台詞が長すぎたのだ。凄まじい叫声とともに魔獣どもが一斉に襲いかかってくる!

 「あしたの朝飯はスープじゃなくて、あっさりとした食べ物がいいよね!」

 最後にコビイが言い放ったその能天気なる提案に、おれは心より賛同した。
したはずだった……。

(第2話に続く)

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